消費者行動のマーケティング

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わかりやすさで群を抜け! 小林製薬、ニッチトップブランド連発の方程式

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商品コンセプトとネーミングがわかりやすさで群を抜く小林製薬。次々に"あったらいいな"をカタチにし、同社がトップシェアを握るブランドは40を超えるという。

斬新な商品の開発だけではない。小林製薬は目下、毎日の日課のように使い続けてもらうために、商品発売後の “育成” にも力を入れている。

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「小さな池の大きな魚」戦略

"あったらいいな"をカタチにする」というブランドスローガンを掲げ、次々にユニークな商品を世に送り出す小林製薬。その特異なセンスのネーミングを含め、「よくぞ思いついた!」と膝を叩きたくなるような商品も少なくない。

人気商品にはトイレ用洗浄剤「ブルーレットおくだけ」、額に貼る冷却シート「熱さまシート」、瞳を直接洗う洗眼薬「アイボン」、傷あとの改善薬「アットノン」、のど用殺菌消毒薬「のどぬ~るスプレー」などがある。いわゆる消費者ニーズの隙間を埋める商品で、そのコンセプトやネーミングには群を抜くわかりやすさがある。

ロングセラー商品にあぐらをかくことはしない。果敢に新商品を投入し続けるのも小林製薬流である。同社は毎年、既存ブランドからのライン拡張も含めて25品目前後の新商品を発売している。

2021年ののユニークな新商品なら、安眠を促す温め耳せん「ナイトミン 耳ほぐタイム」があるだろう。耳せんに発熱体がついており、遮音効果のみならず耳を温めることによるリラックス効果が期待できるという。これまでなかった斬新な発想で、ピンポイントのニーズをすくいとる姿勢は健在といえる。

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小林製薬は自らの商品戦略を「小さな池の大きな魚」戦略と呼ぶ。競合がひしめく500億円市場で5%のシェアを取りにいくのではなく、まだ誰も見つけていないニーズを見つけ出し、そのニーズを満たす商品で50億円市場の50%を取りにいく

小林製薬は現在、ヘルスケア、日用品、スキンケア、カイロの分野で160弱のブランドを擁しているが、トップシェアを握るブランドは40を超えるという(小林製薬 統合報告書2019)。

小林製薬がまだ手つかずの未充足ニーズばかりを狙い撃ちするのには同社の出自に絡む事情がある。雑貨や化粧品、医薬品の卸売りの会社として創業したため、卸の取引先との直接的な競合を避ける必要があったのだ。そして今や、そんなニッチトップ戦略が同社の戦略の神髄となっている。

ニッチ市場の発見は「プロブレム」から

ではどう消費者さえも気づいていないようなニーズを見つけ出すのか? そのキーワードが小林製薬の社内用語でもある「プロブレム」だ。対処方法がなかなか見つからない消費者の困りごとを指す。

同社の公式サイトには、ニッチな商品は大部分の消費者には意味がなくとも、特定の困りごと(プロブレム)を持つ消費者には何ものにも代えがたい存在になり得るとある。そんな困りごとを見つけ出し、解決のアイデアを生み出すことを小林製薬は全社的な信条にしているのだ。

www.kobayashi.co.jpそれほどの困りごとなら消費者に訊けばすぐに返ってきそうだが、実はそうではない。人は日常の生活の多くのことをほぼ無意識のうちに行っており、その困りごともやり過ごしているうちに習慣化し、意識にのぼらなくなる。それゆえ改めて訊かれても言葉に落とし込むのが難しい。小林製薬から提案を受けて初めて、自分が困っていたことに気づくのだ。

そこで小林製薬は、全社員による「アイデア提案制度」という毎月新商品のアイデアを募るユニークな制度を設けている。“あったらいいな” を生み出すために1982年から続いており、2020年度は4万件近い新商品のアイデアが集まっている。

よい提案を出した社員は社内報にも掲載され、経営層との食事会がプレゼントされるという。主体性をもって挑戦した人を誉めるのも小林製薬の流儀なのだ(小林製薬 統合報告書2020)。

集まったアイデアから実際に商品化されるのは針の穴に糸を通すような確率となるが、小林製薬の社員全員がいったん生活の現場に立ち返って「こんなことに困っているのではないか?」と意識的に思いを巡らせる。そんなマインドセットが全社的に共有される意義は大きい。消費者の目線で考えることが自然に訓練される組織文化が根付いているのだ。

KPIは新商品の「4年寄与率」

その小林製薬は昨今、新商品の「4年寄与率」というKPIを掲げている。これは毎年の全売上げに占める直近4年以内に発売した商品の比率のことをさす。

この寄与率は既存のロングセラー商品に過度に頼るのではなく、新商品、すなわち新たな市場創造によって着実に稼ぐ企業体質になり得ているかを視る意味がある。一方で、あえてその目安を4年と置いたのには別の事情もあったようだ。

東洋経済オンラインの2017年2月10日付の記事によれば、かつての小林製薬は新商品を出すこと自体が目的になっていた時期もあったという。半年も経つと店頭から消えていく例も少なくなかったのだ。それでは労力や開発コストだけが無駄にかさんでしまう。さらにもし使い続けようとするユーザーがいた場合、その期待を裏切ることにもなりかねない。

toyokeizai.netそこで同社は方針転換し、新商品を積極的に開発するにしても、よくよく市場性を吟味し、そのポテンシャルをテストしてからとすることを鉄則とする。そして、いったん世に送り出したらきちんと育成していく。おそらく、その開発と育成のしくみが機能しているかを視る目安として直近4年以内の寄与率をKPIにしたのだろう。

こうした方針から、小林製薬は投入する新商品の中から2~3商品を選んで広告や販促を重点的に行い、販売の山を一の矢、二の矢、三の矢と継続的に作りながら育成していくという(小林製薬 統合報告書2020)。

新商品をテレビCMなどで知り、たまたま気に入って買ってくれる人は大勢いる。新しいものに触れると、人の脳はちょっと興奮状態に陥って妙に試してみたいという気になるのだ。そのため、新商品は実力以上にトライアル(試し買い/初回購入)を稼ぐことがある。導入期を目掛けてテレビCMなど販売促進策が盛んに行われるとすればなおさらだろう。

小林製薬が問題にするのはむしろその後だ。いかにリピート(継続購買)させるか、すなわちいかに商品を使い続けてもらえるかである。第2、第3の販売促進策で勢いをつくりつつ、リピーターを徐々に増やし、リピーターたちから社会的影響力が波及することでさらに新規顧客を獲得していく。そんな好循環をいかにつくり出せるかを小林製薬は注視しているのだ。最終的な目標は同社の商品を多くの人に習慣的に使ってもらい、生活文化に根付かせることにある。

習慣化を促す「B=MAP」モデル

では習慣化をいかに促すのか? その視点から小林製薬の商品を捉え直す有効なモデルがある。スタンフォード大学行動デザイン研究所のBJ・フォッグ教授が提唱する「B=MAP」モデル(フォッグ行動モデル)だ。これは行動(Behavior)はモチベーション(Motivation)と能力(Ability)ときっかけ(Prompt)の3つの要件が満たされたときに喚起されるとする一種の公式をいう。

なみに首相の記者会見などで「プロンプター」という文字を映し出す映写機が使われることがあるが、それは「B=MAP」モデルの「きっかけ」を意味する英語、promptから来ている。「プロンプター」のお陰で手元に目を落とさず語りかけるように流暢に話せるようになるが、習慣を定着させるのにも「プロンプター」は有効なのだ。

フォッグ教授は1回や2回で完結する行動ではなく、日課のように行動を習慣化させるためには、この「プロンプター(きっかけ)」をどう生活の中に埋め込むかが極めて重要になるという。

フォッグ教授は同モデルの端的な例として、その著書「習慣超大全──スタンフォード行動デザイン研究所の自分を変える方法」の中で教授自身のエピソードを一つ明かしている。

www.diamond.co.jpある時、教授が赤十字の呼びかけて寄付をしたという。報道で地震のことを知り、犠牲者たちに対して胸を痛め、支援したいという気持ち(モチベーション)が高じていた矢先のことである。たまたま赤十字から寄付を呼びかけるテキストメールが届いたため、即座に答えたのだった。

メールに応答するだけならとても簡単(能力)で、しかもタイミングよく受け取ったこと(きっかけ)が教授の背中を押す。すなわち、3つの要件が整ったことで行動が誘発されたのである。

この3つの要件が巧く噛み合うことで一回性の行動のみならず、その行動を習慣として定着させることも可能だという。ただし、習慣化するためにはもう一つの要件、自分の脳に喜びで祝福を与える必要があり、フォッグ教授はこのプロセスを「シャイン(shine)」と呼んでいる。この「シャイン」が伴うことで脳が徐々に書き換えられ、新たな習慣がほぼ無意識のうちにこなせるようになるのだと教授はいう。

小林製薬の商品が習慣化の3要件を満たす

小林製薬の商品に話しを戻そう。実は同社のロングセラー商品の多くはフォッグ教授のいう要件を実に見事に満たしているのだ。

まず、なんといっても秀逸なのが同社の用語でいう「プロブレム」の設定の仕方だ。困りごとといっても、体調がすぐれない、肌荒れが気になるといった漠としたことではない。いずれも具体性を伴う形でピンポイントに切り取っている

例を挙げれるなら同社のヘルスケアの商品が分かりやすい。逆むけをケアする「サカムケア」や足つりやこむらがえりの痛みに効く「コムレケア」など、いずれも困りごとが標的を絞った形で単元化されている。

www.zakzak.co.jpそれらは特定の人たちにとっては切実な困りごとであり、対処目標が明確なため、強いモチベーションが生れる。目標が絞られる分、対処方法もシンプルでイメージが沸きやすい。商品をどんな時にどう使えば、どんな結果が出せるのかの類推が働くため、2つ目の要件である能力(Ability)も同時に満たされる。

ここにテレビCMやパッケージのグラフィックもあと押しをする。小林製薬のテレビCMには情報提示の仕方に一定のパターンがあり、冒頭の「あ、小林製薬!」のサウンドロゴに始まり、どんな困りごとに対して、どう対処できるかを愚直なほど分かりやすく示す。さらにパッケージを見れば、その使い方が一目瞭然でCMのイメージとも鮮やかに呼応する。

そこに小林製薬の直感的な分かりやすさを追求した独特のネーミングセンスが加わる。一度聞いたら忘れられないほど語感に引っかかりがあるため、とるべき行動がタイミングよく思い出せる。商品名の記憶自体がきっかけ(Prompt)として機能するのだ。

ranking.goo.ne.jpフォッグ教授は生活の中にきっかけを上手に組み込む方法として、既に日課として固定化された習慣に新たに身につけたい習慣を紐づけることを薦めている。たとえば「トイレを終えるたびに腕立て伏せを2回する」「歯を磨いたあとにフロスをする」といった例だ。

このことはまさに小林製薬の商品が得意とするところと言ってよい。歯間掃除の「糸ようじ」や携帯用のトイレ消臭剤「トイレその後に」などのロングセラー商品がその典型だろう。歯磨きの前後やトイレのあとなど日課として必ず行う行動と同社の商品が紐づいているため、多くのユーザーが習慣的に使い続けるようになったのだ。

商品が脳に与える祝福(シャイン)とは?

ではフォッグ教授のいう自分の脳に喜びで祝福を与える「シャイン(shine)」はどうだろうか? 教授はいい気分になることが習慣を身につける最高の方法であり、その習慣が短期間で定着する効果もあるという。

教授は著書の中で、習慣化すべき行動を終えた後に、親指を立てたり、ガッツポーズをしながら「やった!」と言ったり、ボディビルダーのようなポーズをとったりすることを「シャイン」のアイデアとして紹介している。おそらくこれは脳に一種の「餌付け」をするような儀式なのだろう。脳が祝福されるからこそ、新しい習慣を取り込むことが楽しくて仕方がなくなるのだ。

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では小林製薬の商品を長年使い続けている人たち、すなわち習慣化を果たした人たちの中にガッツポーズをするなど教授のいう「シャイン」のプロセスを踏んだ人はどれほどいるだろう?滅多にいないだろうが、それでも習慣が根付いたのは、同社の商品を使うことで、その効用や使用感によって少なくとも脳に喜びが与えられていたためだ。

もともとピンポイントの困りごとを解消するための商品であり、使用後はその効果、もしくは効果への「期待」を感じることはできるはずだ。厳密には直接的な効果とは言い難いが、洗眼薬「アイボン」やのど用殺菌消毒薬「のどぬ~るスプレー」などは使用後の爽快感や清涼感が伴うため、ポジティブな感情を脳に与え得るだろう。

一方で、小林製薬は漢方や生薬(しょうやく)も多く手掛けている。こうした分野の商品は必ずしも頓服剤のような速効性があるとは限らない。そんな場合でも「きちんと対処している私」「悩みを解決しようとしている私」という前向きなアイデンティティを感じることはできるはずだ。

商品の目標が明確に絞られていることで、その成果や成果の期待も感じやすく、前向きに対処しているアイデンティティも感じやすい。わざわざポーズをとるようなまねをしなくとも、小林製薬の商品を使うことは脳に祝福(シャイン)を与えることになる。

毎日の日課に小林製薬の商品を

こうしてみると、小林製薬の商品の多くは習慣化を促す要件が揃っているといっていいだろう。フォッグ教授の「B=MAP」モデルに即しており、習慣を定着させるのに不可欠な「シャイン」までもれなくついてくるのだ。

こうした芸当ができるのは、小林製薬が「プロブレム」をシャープに切り取っているからである。そこがすべての柱石を担うため、目標も明快で行動に移しやすく、さらに習慣化もしやすくなる。

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実はフォッグ教授の著作「習慣超大全」の原題は「TINY HABITS(タイニー・ハビット)」。「小さな習慣」という意味だ。新たな習慣を身につけたいなら、まずはとびきりシンプルで目標が明快な「小さな習慣」から始めようというメッセージが原題には込められている。まさに小林製薬がこだわってきたことと見事に合致する。

もちろん、小林製薬も百発百中ではない。「B=MAP」モデルの各要件の満たし方は商品ごとに濃淡はあるだろう。不発に終わって4年を待たずに市場から消えることがあるのもそのためだ。

それゆえ、小林製薬は足りないピースを埋めるために、発売後には市場の反応を見た上で果敢にてこ入れ策も行っている

たとえば足つりやこむらがえりの痛みに効く「コムレケア」では、大阪岸和田の「だんじり祭」など身体を激しく動かすお祭りに目をつけた。全国50カ所以上のお祭りに照準を絞り、ドラッグストアの店頭など集中的な販売促進策をしかけている。そうしたお祭りをモチベーションが高まる好機と捉えたのだ。

www.nikkei.comまた、鼻うがい薬「ハナノア」では、「痛そう!」という潜在顧客たちの不安を払拭するために、片方の鼻の穴からハナノアを吸い込み、もう片方の穴から気持ちよさそうにジャーッと流し出す広告で手軽さをアピールしている。そのインパクトあるビジュアルが話題を呼んだが、これは能力(Ability)の要件を補おうとしたのだろう。

www.j-cast.comまた、食物繊維を手軽に摂取できる「イージーファイバー」では好きな食べ物や飲み物と一緒に摂れる点を盛んにアピールしている。これは能力(Ability)の要件にもプラスに働くが、毎日の食生活がおのずときっかけとなり、「イージーファイバー」の摂取を習慣化することにも役立つだろう。

新商品4年寄与率 20%に挑む

小林製薬の統合報告書2020によれば、同社はKPIの「新商品の4年寄与率」を20%に設定している。実際の寄与率は2016年には20%を超えていたが、それ以降はダウン傾向にあり、2020年は12.2%にとどまった。開発の初期段階で市場性の見極めを厳しくしたことが一因である。今後はその基準を緩めることなく新商品の投入を積極的に行い、4年寄与率を引き上げていく意向のようだ。

三日坊主という言葉があるように新たな習慣を取り入れることは簡単ではない。現代人は常に苦戦を強いられている。健康器具を勢いで買ったものの、途中で挫折して使わなくなった例など枚挙に暇がない。

商品の開発と育成を通して、その戦いに挑む小林製薬は今後、どんな切れ味を発揮してくれるのか? 自社商品を長く使い続けてもらうためにも、多くの人に望む習慣を身につけてもらうためにも、同社の消費者との共闘ぶりに期待したいところだ。

<主な情報源>

「小林製薬『小さな池の大きな魚』戦略の舞台裏 ニッチ市場で高シェア商品を連発できるワケ」2017年11月06日 東洋経済オンライン

小林製薬 公式サイト 製品を通じた社会的課題解決(参照日2021年12月27日)

「小林製薬はなぜ「4年内製品」にこだわるのか ニッチでユニークな製品はこうして生まれる」2017年02月10日 東洋経済オンライン

小林製薬 2020年12月期統合報告書

小林製薬 2019年12月期統合報告書