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【コンセプト図鑑】ジンズ・サングラス JINS&SUN "EVERYDAY EYE WEAR"

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JINS&SUN サングラスの民主化を目指すブランド

メガネ専門店のジンズが手掛けるサングラスブランド「JINS&SUN(ジンズ アンド サン)」。2021年の4月に発売を開始した新しいブランドで、コンセプトは「EVERYDAY EYE WEAR」だという。直訳すれば、目に毎日着せるウエア、すなわち普段使いのメガネとなる。

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同社のニュースリリースによれば、「EVERYDAY EYE WEAR」は、かける人もシーンも選ばない、自由で新しくて、それぞれのライフスタイルに合わせたサングラスを提案するとの意味合いらしい。「太陽のもとで暮らす全ての人にサングラスの新しい在り方を提案」し、サングラスの「民主化」を目指すともある。

「EVERYDAY EYE WEAR」は、その言葉の額面には「おっ!」と興味を引くような斬新さはない。しかし、このコンセプトにはサングラスの既成の概念を覆(くつがえ)すというジンズの意欲的な挑戦が秘められているようだ。

さすがに今どきはサングラスからアウトロー的な怪しいイメージを抱く人は少数派だろう。しかし、やはり“芸能人や気張ったおしゃれを好む人がかけるもの”というステレオタイプは根強く、その打破をジンズは目指す。このあたりを同社はリリースで「サングラスは主張が強いもの」という概念を覆すと言い表している。

サングラスを遠ざける文化的規範

この「EVERYDAY EYE WEAR」のコンセプトから、ふと思い出すのがコロナ禍で浮彫りになった「マスク」に対する日本と欧米の意識の違いだ。

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顔の中で口元は自分の意思で動かせる範囲がもっとも広く、感情が顕著に表れる部位らしい。感情を豊かに表現することを是とする欧米人は、その口元がマスクで隠されてしまうのを嫌う傾向にあるという。たしかに欧米のスーパーヒーローは怪傑ゾロやバットマン、キャプテン・アメリカなど、目元は隠しても口元は隠していない印象がある。

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一方で、感情を表に出すことを是としない日本人は目元の微細な動きこそ、双方向のコミュニケーションの鍵だとして、あまり目元を隠したがらないのだという。

この傾向はマスクの着用率を上げるのには好都合だったが、サングラスを普段使いしてもらうにはマイナスに働くのだろう。なんとなく気後れしてしまうのだ。文化的な規範要因が商品ジャンルの消費を抑制する一つの例といえる。

「EVERYDAY EYE WEAR」のコンセプトは、その人々の意識を取り払う、陳腐な言い方をすれば「パラダイムシフト」にジンズが挑むことの宣言でもあるのだ。

「サングラス=主張が強いもの」という、当たり前を覆す

では「JINS&SUN」のブランドは、そのコンセプトをどう具現化したのか?

特徴的なのは、太陽のもとで暮らす全ての人、それぞれの嗜好やライフスタイルに寄り沿うその豊富なラインアップだ。立ち上げ時には「NEW STANDARD」「BASIC」「POP」「SPORTS」など7カテゴリー、全41型129種を展開し、その後は続々と新たなラインアップを追加している。

価格もリーズナブルで、カテゴリーによっては8,000円以上するものもあるが、多くは3,000円から5,000円程度で買える。

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また、裏原宿系のストリートブランド「ア・ベイシング・エイプ(A BATHING APE)」の創業者、NIGO(ニゴー)氏が監修を務めていることでも話題を集めている。

7カテゴリーの一つ「NEW STANDARD」では、新しいスダンダートというその名が示す通り、前述した「サングラス=主張が強いもの」という、あたりまえを覆すという発想から生まれたラインアップだ。

ボリューム感を抑えながらもサングラスとしての機能はそのままに誰の顔にも自然にフィットするフレームを採用し、TPOを問わず誰もがかけやすいデザインに仕上げたという。その「NEW STANDARD」のサングラスには9つの型があり、それぞれ3色がそろう。一つカテゴリーだけで27種あるというわけだ。

他のカテゴリーも同様な展開で、「POP」であればポップでノスタルジックな色づかいになっていたり、「SPORTS」であればスポーツシーンでも快適に使えるよう激しい動きでもズレが少なく落ちにくくなっていたりと、人々の嗜好やライフスタイルにきめ細かく対応している。環境に配慮し、生分解度の高いバイオプラスチック素材を使用したラインもあるという。

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CMのコピーは「サングラスを自由に、新しく」

今やサングラスは100円ショップでもそこそこのものが買える時代ではあるが、「JINS&SUN」のラインアップを見る限り、「EVERYDAY EYE WEAR」といっても、「良品廉価」の路線ではない。あくまでデザイン性の高さとバリエーションの豊富さでサングラスの普段使いを促そうとしているのが見て取れる。

おしゃれな“セカンドウォッチ”として人気を集めたスイスの腕時計ブランド「スウォッチ」を彷彿とさせる展開だ。

prtimes.jp

その「JINS&SUN」の広告展開もそのコンセプトをより魅力的に伝えている。WEB CMでは、俳優・歌手の山下智久を起用し、彼の日常をストーリー仕立てで描き、サングラスが身近にある“あたらしい、あたりまえ”を自然な形で映し出す内容になっている。「サングラスを自由に、新しく」がメインコピーだ。

ブランドの「成長痛」に挑む定石コンセプト

マーケティングの世界では、ブランドの使用機会を広げ、人々の日常生活にもっと溶けこませようとする試みは数多くある。

ターゲットや使用シーンを限定することでブランドのポジショニングを確立したものの、やがてブランドがライフサイクルの後半戦を迎えると、ターゲットやシーンを限定していたことが成長の足かせになってしまうことが往々にしてあるためだ。ブランドの「成長痛」の一つといってもよい。

お祝いや記念日、パーティーなどで出番の多かったブランドを普段に、非常時や災害時用のブランドを普段に、プロやハイアマチュア向けのブランドを普段にといった具合に、この広い空の下、必ずどこかでマーケターが取り組む典型的なマーケティング課題といえる。

ただし、「JINS&SUN」の場合はやや位相が異なる。マーケターがブランドの差別化のために勝手に設けたターゲットやシーンといった制約を改めて見直すのではなく、「サングラス」という商品ジャンルに根付いた消費者の意識を変える試みである。

一介のブランドが一つのジャンルに伴う文化的な規範を揺り動かすのは容易ではなく、「牛歩」の時間軸も覚悟しなければならない。それゆえ、「JINS&SUN」はそのことをコンセプトの核に据えたのだろう。

「EVERYDAY EYE WEAR」のコンセプトはマーケターがキャリアを歩む途上で、いつかは巡ってくる課題を象徴しているといえる。容易なことではないが、ブランドの「成長痛」への対応が、思わぬ飛躍のチャンスにつながることもある。

そんなとき、勝利の女神の前髪をしっかり掴めるように、普段使いを促すというコンセプトは基本的な定石の一つであることを頭の片隅に入れておこう。

 

<主な情報源>

「“サングラスを、自由に&新しく”新サングラスブランド『JINS&SUN』デビュー」 2021年03月22日 PR TIMES

「マスク苦手な欧米、心理学に答えあり 日本人との違いは」 2020年06月20日 朝日新聞デジタル

「JINS初! 生分解度が高く、土に還りやすいバイオプラスチックをフレームに使用、JINS&SUN『CLASSIC』5月27日(木)発売」2021年05月27日 PR TIMES

「“EVERYDAY EYE WEAR”を提案するサングラスの新ブランド『JINS&SUN』ブランド立ち上げの4/1(木)よりWEB CMオンエア」2021年04月01日 PR TIMES