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【コンセプト図鑑】エレコム IHホットプレート「HOT DISH」 一人でも気軽に使える調理家電

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お皿のようなIHホットプレート「HOT DISH」

2022年5月にデジタル周辺機器メーカーのエレコムから発売されるIHホットプレート「HOT DISH(ホットディッシュ)」。その外観は従来のホットプレートからかなり逸脱する。

コンパクトサイズのIHクッキングヒーターに、スープカレーに合いそうな少し深めの皿が乗っているという印象だ。電源ケーブルがなければ調理家電であることすら気づかないかもしれない。予定の販売価格は2万1780円だという。

prtimes.jp

「HOT DISH」のニュースリリース(PR TIMES 2022.1.12)には、一人分にちょうどいいサイズ感で、「つくる・食べる・片づける」が手軽にできるシンプル調理機器とある。

お皿のような形の焼きプレートで「焼く・炒める」から「茹でる・煮る・蒸す」までをこなし、調理をしたものを別の食器に移し替えることなく食べられる。いわゆるお皿一枚で一食が完結するワンプレート料理のイメージだ。保温が効くため、最後のひと口まで温かいというのもいい。

後片付けも簡単で、セラミックコーティングのため、汚れが落ちやすくて洗いやすく、皿を洗うような感覚で扱えるらしい。

リリースには「家電の『機器っぽさ』を排除した、暮らしに溶け込むお皿のようなデザイン」とあるが、たしかにコンパクトで場所もとらず、ダイニングテーブルに置いたままにしておいても違和感はないだろう。通常のホットプレートなら出し入れ自体が面倒になるが、そのストレスからも解消されること請け合いだ。

コンセプトは「一人でも気軽に使える調理家電」

日本経済新聞の2022年3月24日付の記事によれば、この「HOT DISH」のコンセプトは「一人でも気軽に使える調理家電」だという。

www.nikkei.com

もっともGoogleで検索する限り、このコンセプトを載せているのは今のところ日本経済新聞のみで、記事を書いた記者がニュースリリース等を読み取った上で編み出したコンセプト表現の可能性もある。エレコムの公式サイトやリリース類でも「一人でも気軽に使える調理家電」との記述は見当たらなかった。

その出自は定かではないにせよ、製品開発の背景を知ると、「一人でも気軽に使える調理家電」とのコンセプトは平明かつ的確に表現されているといってよい。

デジタル周辺機器メーカーが調理家電に新規参入

まずコンセプトに(ホットプレートではなく)「調理家電」と銘打っているのは、このIHホットプレート「HOT DISH」がエレコムが発売する初の調理家電だからだ。

エレコムといえば、主力の製品はPCやスマートフォンなどのデジタル周辺機器。マウスやモバイルバッテリー、スマートフォンケース、ワイヤレスイヤホンなどエレコムの製品を使っている人も多いはずだ。

ただし、エレコムの公式サイトをみると、昨今はヘルスケア、美容・健康、アウトドアなどのジャンルにも製品を盛んに投入している。そして、このIHホットプレートによってエレコムはいよいよ「調理家電」にも新規参入を果たすことになる。

家電メーカーが発売するIHホットプレートなら、わざわざコンセプトに調理家電とうたう必要はないが、エレコムなら別だ。

デジタル周辺機器で知られるエレコムから発売される調理家電だからこそ意外性があり、興味をひく。同時にエレコムを知る人なら「エレコムなら何かやってくれそう」という期待感も湧くだろう。エレコムと調理家電という組み合わせ自体がこのコンセプトの肝でもあるのだ。

ファブレス・メーカー「エレコム」の強みとは?

エレコムの公式サイトによると、エレコムの強みは常に人々に快適さと便利さを提供する製品(=グッドプロダクツ)を超高速サイクルで開発する力にあるという。

自前で工場を持たずに製品の開発やデザインに特化するファブレス・メーカーで、市場の需要・トレンドに合った製品を迅速に市場に投入することで成長を続けてきた。扱う商品点数は約17,000点に上り、それらが3~4年で全て入れ替わる。それだけ市場が目まぐるしく変化するのだ。

ユーザーが求めているモノのみならず、その少し先のニーズにも視野を広げた製品を開発するのがエレコムの信条で、それが消費者から支持を集め、高いシェアの獲得につながっているのだろう。

調査会社のBCNによれば、マウスや10キーボード、モバイルバッテリー・充電器、スマートフォンケースなどデジタル周辺機器の12部門でトップシェアを獲得しているという。

prtimes.jp

PCやスマートフォンのような主役は張れないが、「おっ、これはいい!」と思える、心憎いほど勘所を押さえた製品がエレコムにはある。しかも値段は手ごろだ。自分の生活にスッとなじんで、強く主張することなく恩恵を与えくれている。おのずと信頼感も湧くはずだ。

そのエレコムが調理家電という食生活の一翼を担う製品を出してきたのだ。エレコム製品の主要販路である家電量販店で、「HOT DISH」を見かけるとすれば、なおのこと興味を覚えるだろう食指が動く。

signal.diamond.jp「HOT DISH」の開発プロジェクトに携わったエレコムの担当者によれば、ユーザーから時々、「エレコムの製品は気づいたら家にたくさんあった」と言われることがあるという。そして将来的には「気づいたら家にある調理家電がエレコムだった」と言われるようになりたいとも語っている(DIAMOND SIGNAL 2022.2.26)。 

一人用の調理家電、一人用のホットプレート

ここまでが、なぜコンセプトに「調理家電」と銘打ったの話しであるが、ここから「一人でも気軽に使える」のくだりに焦点を移そう。この表現も言い得て妙で「HOT DISH」が一義的にアピールすべき点を端的に言い当てている。

単身世帯や共働き世帯が増え、「簡便調理」や「個食」へのニーズが高まっていることはもはや自明の長期トレンドである。一人暮らしや「個食」をする人たちをターゲットにした、小ぶりで簡便な使い勝手の調理家電は種類も豊富だ。

www.itmedia.co.jp

しかし、エレコムは、たくさんある調理家電の中でもホットプレートなら勝機があるとみたのだろう。アマゾンのサイトで「ホットプレート 一人用」で検索すると、タイガー魔法瓶やBRUNO(ブルーノ)、アイリスオーヤマ、山善など隙間ニーズを埋める名手たちの製品が数多くヒットするが、エレコムは持ち前の商品開発力で差別化できると踏んだのだ。

エレコムが実施した消費者調査からは、たとえひとり暮らしでも「健康や美容のためになるべく自炊をしたい」「家でゆっくりご飯を楽しみたい」という思いはあるが、一方で「時間がない」「調理が面倒」「片付けが面倒」といった理由で自炊へのハードルが高いことは浮かび上がっていた(DIAMOND SIGNAL 2022.2.26)。

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「ワンプレート料理」の連想で自炊にスイッチ

この互いに対立し合うニーズを満たし、自炊への抵抗を下げる手立てとして、エレコムが着目したのが、一人前一食分が一つのお皿で完結するワンプレート料理の連想だ。

いわゆるカレーライスやチャーハン、焼きそばといった類が典型だが、昨今では主食と主菜をワンプレートに上手に盛り付ければちょっとしたご馳走感も出せるイメージもある。

もし、ホットプレートがワンプレート料理を想起させるお皿のような形をしていたらどうだろう? 簡便さや手軽さが引き立ち、1人でも自炊してみようという気持ちにスイッチが入るのではないか? キッチンではなく食卓で、しかもお皿の上で調理ができ、そのまま食べられ、自分にご馳走をふるまう充実感も味わえる。いたずらに洗い物を増やすこともない。

kaden.watch.impress.co.jp

エレコムはそう考えて製品デザインを発案したのだろう。たしかによくある四角い形状のホットプレートでは、いくらサイズが小ぶりでも家族で囲む大仰さが拭えない。一人暮らしの食卓に置こうとは思わず、出来合いのものを買って食べる方へ軍配は上がるだろう。

四角から丸形への転換。ここが差別化のポイントだ。お皿の形をしたホットプレートだからこそ、「一人でも気軽に使える」がリアルな現実になり得るのである。

コンセプトを一歩引いた目線から

「HOT DISH」のニュースリリースには「『お皿』なのに『調理』できる!?」とあり、最も特徴のある形状にフォーカスを当ててコンセプトにすることもできたはずだ。しかし、そこはエレコムが発売する初の調理家電だ。企業ブランドの「借景(しゃっけい)」も視野に、まずは「HOT DISH」がどんな立ち位置の製品なのか、誰に向けた製品なのか、一歩引いた目線から言いあてたのだ。

prtimes.jp

「HOT DISH」はクラウドファンディング(CF)サイトのMakuake(マクアケ)で先行発売しているが、反響は想定以上だったようだ。公開1時間で初期の目標金額を達成したという。

Makuakeサイトで購入者のコメントを読むと、多くの人たちがやはり用途や使用シーンに直結した製品デザインに背中を押された印象だ。実際、店頭に並んだときにどんな反応になるのか? どれほど「エレコム」という企業ブランドの神通力が調理家電で発揮されるのか?今後の行方を興味深く見守りたい。

<主な情報源>

「『お皿』なのに『調理』できる!? ワンプレートで気軽においしいIHホットプレート『HOT DISH(ホットディッシュ)』Makuakeにてクラウドファンディングを開始 2022年01月12日 PR TIMES

「エレコム、調理家電参入 5月にホットプレート発売 一人暮らしや共働き照準」2022年3月24日 日本経済新聞

「エレコム 事業領域/当社の強み」 エレコム公式サイト 参照日2022年04月14日

エレコムが「BCN AWARD 2022」の12部門で最優秀賞を受賞 2022年01月20日 PR TIMES

「創業から35年、パソコン周辺機器のメーカーのエレコムが新たに『白物家電』を開発した狙い」 2022年02月26日 DIAMOND SIGNAL

「【エレコム初の白物家電 開発秘話】エレコムがひとり暮らし向けIHホットプレート『HOT DISH』の開発に挑戦した理由。」2022年02月22日 PR TIMES STORY

「【公開1時間で目標金額を達成!】エレコム初の調理家電、IHホットプレート『HOT DISH(ホットディッシュ)』Makuakeにて先行販売中」2022年01月19日 PR TIMES