消費者行動のマーケティング

人が動いたワケから探るヒットの黄金律

消費者行動のマーケティング

【コンセプト図鑑】洋服の青山 「PT-9」累計販売数40万着! 根強いスーツ文化、その進化を支える適応種

累計販売数40万着、絶大な人気のストレッチスーツ

「ストレッチ」と聞いて人は何を思い浮かべるだろう?

大方の人は筋肉や関節を伸ばすストレッチ体操の類に違いない。スポーツ選手の準備運動や一般の人でも腰痛・肩こりなどを防ぐのに行う。一方で、伸縮性に富んだ布・素材を連想する人もいるだろう。もともとの英語「stretch」は「引き伸ばす」といった意味がある。

実はこの「ストレッチ」なるワードが、一時代前なら想像だにしなかった領域で注目を集めている。ビジネススーツだ。ストレッチスーツや機能性スーツ、アクティブスーツなどその呼び名は一つではないが、いずれも動きやすく着心地のよいストレッチ素材が使われている。アンダーウエアやスポーツウエアなどでは既に一般的ではあったが、ビジネススーツでもストレッチ性に優れたスーツが新たな主戦場になりつつある。

getnavi.jp

そして、そんなストレッチスーツの中でも、注目株が洋服の青山の主力スーツ、「PT-9(ピーティーナイン)」だ。累計販売数40万着を誇り、活動的なビジネスパーソンから絶大な支持を集めているという。

ブランド名の「PT」は「PRESTIGE TECHNOLOGY(プレステージ テクノロジー)」の略で、洋服の青山では機能性商品カテゴリーの総称としてそう呼んでいるようだ。そこに数字の中で最も大きく、完結や完成の意味もある9(ナイン)を添え、「機能性を極める」のメッセージを込めたという。

www.presscube.jp

洋服の青山オンラインストアでは、「PT-9」をストレッチ性に特化した「ハイパフォーマンススーツ」と称し、スッキリとしたスマートなスタイリングで高いストレッチ性を保持し、着用者の身体の動きを妨(さまた)げないように工夫されたスーツとしている。

二面性を言い当てたコンセプト

その「PT-9」のコンセプトが「外見はスーツ、中身はスポーツ」だ。

「美しさと快適さは両立しない」というスーツの常識を覆したという「PT-9」を分かりやすく表現しているといえよう。レトリックでいう対句法(似た構造の句を並べ互いに引き立て合う技法のこと)を用い、相反する「PT-9」の二面性を端的に言い当てている。リズム感もあり、口端にものぼりやすい。

洋服の青山も「PT-9」には力を入れているらしく、2015年の発売以来、毎シーズン改良を加えているという。デジタル大辞泉によれば、コンセプトとは「商品全体につらぬかれた、骨格となる発想や観点」の意味というが、その骨格となるコンセプトを念頭に関係者たちが一丸となって改良に取り組んできたのだろう。

「中身はスポーツ」をどう実現したか?

洋服の青山オンラインストアには、この「外見はスーツ、中身はスポーツ」のコンセプトを一般の消費者向けに解説したページがある。一際強調されているのは「圧倒的な動きやすさ」だ。「カッチリした見た目」を保ちつつも、「体の動きにしなやかに寄り添うストレッチ性」を実現しているとある。

www.dreamnews.jp

スポーツウェアのような伸縮性のある生地を用いたことで、窮屈感が軽減され、ストレスフリーな着用感が得られるようだ。それゆえ、出張や外回りの多いビジネスパーソンには特にお奨めとある。

この「PT-9」のストレッチ性をさらに詳しく見ていくと、ストレッチ素材といってもヨコにしか伸びないワンウェイ(1WAY)ストレッチに対し、「PT-9」の表地は、伸縮性を追求するためにタテとヨコに伸びるツーウェイ(2WAY)ストレッチらしい。

さらに通常のストレッチスーツは表地が伸びるだけだが、「PT-9」は裏地も伸びる。表地の伸縮に追随するようになるため、動きやすさが格段に違うのだという。

ストレッチ素材以外にも、腰周りや肩周りに独自の工夫が施され、まさにコンセプト通り「中身はスポーツ」を実現し、スポーツウェアのように軽やかで動きやすい快適な着心地を体感できる。

「外見はスーツ」に向けたこだわり

しかし、この「PT-9」の真価は「中身はスポーツ」だけではなく「外見はスーツ」という本来なら相いれない二面性を両立させたところにある。着用した際の動作性や快適さはその一面に過ぎない。

「外見はスーツ」については「洋服の青山公式note」の2022年3月3日付の記事に詳しく、「PT-9」は正統派スーツの真骨頂でもある「カッチリ見え」もするというのだ。

昨今のストレッチスーツといえば、ポリウレタンやポリエステルなどの素材でどうしてもカジュアルに寄った印象となるが、「PT-9」の表地はウール50%、ポリエステル50%の混紡。そのウールは希少なUSAウールで美しい風合いに仕上げられており、見た目も本格的なスーツと遜色がないという。

note.com

「PT-9」の洗練されたシルエットも「カッチリ見え」する印象に一役買っている。洋服の青山のスーツには「スタイリッシュ(細身・スリム・スキニー)」と標準シルエットの「スタンダード」があるが、「PT-9」は「スタイリッシュ」タイプに入る。全体的に細身ですっきりとしたシルエットに映るよう、素材以外にも随所に工夫がされている。

その一つが、ジャケットの肩周りのデザインだ。公式noteによれば、肩パッドなどの副資材を極力省くことで、身体のフィット感を高め、同時に軽量化もされており、すっきりとした印象になるという。一方、パンツは腰周りがノータックで、ひざ下から裾にかけて細くなり、脚がすっきりと見えるテーパード(tapered、次第に細くなるの意)ラインを採用している。

こうした生地の素材や製法に工夫を凝らしたことで、細身ですっきりとした清潔感のある印象につながる。「PT-9」はまさに「外見はスーツ」を体現しているといえよう。

色やサイズ展開、2つのスマポケット

色はネイビー、ブラック、グレーの三色から選べる。また、自分の身体にフィットしたスーツを選ぶことが似合うスーツの一番のポイントとなるため(洋服の青山オンラインストア)、サイズ展開も豊富で、スリム型のYA体からゆったり型のBE体まで幅広い体型に合わせたサイズを揃えている。着用する人を選ばないのも「PT-9」の魅力の一つだ。

さらに、スマートフォンを入れるポケットにも特徴を持たせた。ビジネスパーソンの約3割が仕事用とプライベート用にスマートフォンを2台以上持っていることから、ジャケットとパンツにそれぞれスマートフォンが無理なく入るポケットを装備している。

www.nikkei.com

ジャケットの内側の胸ポケットは、口をタテ型にしてスマートフォンを出し入れをしやすくし、イヤホンがケースごと収納できるイヤホンポケットも別の位置に設けている。さらにパンツのヒップポケットにもスマートフォンが収納できる。

www.goodspress.jp

ヒップポケットは通常なら左右1つずつだが、「PT-9」は右側のポケットの上の位置に、スマートフォン用のポケットをもう一つプラスしている。座った際にスマートフォンが邪魔にならないようにしているという。

着心地・機能性 VS. カッチリ見え

「PT-9」が「外見はスーツ、中身はスポーツ」をコンセプトにした背景には、一見堅苦しいイメージのスーツでも、実際に着用する人には、「スーツってこんなに楽なんだ」と実感してもらいたいという思いがあったようだ(ORICON NEWS 2022. 3.9)。

news.mynavi.jp

 ビジネスパーソンを対象とした洋服の青山の調査で、新社会人などフレッシャーズのときに、初めてスーツを選ぶうえで重視したポイントを尋ねたところ、4割が「着心地・機能性」と答えたという。一方、現在スーツを選ぶうえで何を重要視しているかを尋ねると、さらにその比率は上がって、「着心地・機能性」と答えた人が6割を占めた。

ある程度スーツに着慣れてくると「着心地・機能性」を重視するが、フレッシャーズの視点に立ち返ると、「着心地・機能性」の重視度はやや控えめのようだ。

そうそうスーツを何着も持てないうちは、きちんとした印象が求められるシーンに備えて、「カッチリ見え」するスーツをまずは優先したいとの心理が働く。「着心地・機能性」を重視したスーツではどことなく軽薄に見えてしまうという懸念もあるのだろう。

そんなフレッシャーズたちでも、「PT-9」ならどちらも犠牲にせずに済む。まさにその二面性の両立こそが「PT-9」の存在価値なのだ。前述の公式noteによれば、その甲斐あって「PT-9」は入学や入社でスーツを買い求めるフレッシャーズたちにも好評なのだという。

スーツ文化を支える新たな適応種

カフェ文化、スケボー文化、サウナ文化などという言い回しをよく耳にする。ここでいう文化はそれぞれの分野で、人々が疑問を挟むことなく従う行動様式や集団規範のようなものを指す。

www.asahi.com

当然、スーツにも固有の文化がある。昨今はクールビスや働き方改革の影響でビジネスウエアのカジュアル化が進み、スーツ離れで紳士服業界にも逆風が吹く。コロナ禍で在宅勤務が広がったこともそこに追い打ちをかけた。

だからといって時を刻んで人々に浸透したスーツ文化が一律に廃れるとも思えない。ビシッと決めることでほどよい緊張感を保てたり、場をわきまえて装うことで好印象を与えたりと、スーツを着ることの効用を人は知っているからだ。

www.oricon.co.jp

アルコール類を飲まない人でも酒文化がわかるように、スーツを着る機会が少ない人でも、ここぞという時のスーツの効用は察せられるだろう。それゆえ、フレッシャーズたちもスーツを買い求め、最初は多少の抵抗や戸惑いも感じつつ、やがてはスーツ文化の担い手に加わるのだ。

その根深いスーツ文化の進化を支えるひとつの手立てとして、洋服の青山が生み出した新たな適応種が「PT-9」だったのである。

shohishakodo.com

<主な情報源>

「外見はスーツ、中身はスポーツ PT-9キャンペーン情報」洋服の青山公式サイト (参照日2022年04月28日)

「“外見はスーツ、中身はスポーツ”をコンセプトとしたスタイリッシュスーツ『PT-9』 2つのスマホポケットを採用したリニューアル商品を販売開始」洋服の青山オンラインストア お知らせ 2022年03月02日

「ご入社・ご入学のフレッシャーズおすすめスーツ! ”PT-9”の秘密とは...?!」 洋服の青山公式note 2022年03月03日

「『スーツ着ない文化』定着で岐路に立つ紳士服、それでも専門店が模索する“カッコいい”の指標となるスーツの在り方」2022年03月09日 ORICON NEWS